林 以一 氏
- 昭和4年千葉県生まれ。
- 農家の次男で予科練へ。
- 終戦後19歳で木挽き職の義兄に弟子入りし、3年間仕事を学び、独立。
往時、全国的に広く活動していた木挽きも、この後激減。現在では大鋸を使う木挽きは、全国でも十指にみたないという。
その中でも氏は、木の性質を見抜き、最も効率よい木取りのできる職人として知られる。
- 東京都江東区在住。
林 以一 氏 著「木を読む」より
最近は本格的な木造建築が減ったといっても、何年かに1回は、木挽き冥利に尽きるいい仕事も入ってきますよ。
群馬県の沢渡温泉の近くにある美郷館という温泉旅館は、総欅造りとし、各部屋にも各種銘木をふんだんに使った、とても立派な旅館です。
ここの木は足かけ3年、都合200日ぐらいかけて、私と、相棒の力ちゃんが挽いたものなんです。
ここの社長は高山さんと言って、じつは材木会社の社長さんでもあります。 ですから木のプロです。日頃から、これはという木があったら買い集めておく。この人もいい木があると惚れ込んじゃう人です。
私らが挽いたときも、まだどんな旅館にするかっていう具体的な構想はなかってと思いますよ。とにかく、いちばん価値の出る形に挽いてみて、それから使い方を決めたんだと思います。このときの欅は樹齢300年、400年級の立派なものばかりでした。
挽いた端から売ればずいぶん儲かったんでしょうけど、それを売らずにあえて、7年も8年も寝かしておいて、自分で旅館を建てちゃった。はっきりいって、これだけいい木を使った旅館というのはそうそうありませんよ。
美郷館は、仕事に関わったということを抜きにしても、ここが今まで、私が行った中でいちばん気に入っている宿です。